法廷にいた誰もが首を傾げ、呆れて、凍りつく。可憐な少女を手にかけ逮捕起訴された「保護者会会長」が放った妄言――。それは、まだ幼い我が子を失い、深い傷を負った両親の心を、再び抉(えぐ)って踏みにじったのだ。
昨年3月、千葉県松戸市立六実(むつみ)第二小学校3年生のレェ・ティ・ニャット・リンちゃん(当時9歳)が、登校中にさらわれ殺害された事件をご記憶の方も多いだろう。IT技術者であるベトナム人の父親と共に、遠い国からやってきた少女は、性的暴行を受けた挙句、首を絞められ排水路脇に遺棄された。
あまりに惨い事件の公判は、6月18日に千葉地裁で結審した。それに先立ち、14日に行われた被告人質問の終盤、殺人罪などで起訴された澁谷恭正被告(47)は、遺族の弁護人から事件への見解を問われ、こう言い放ったのだ。
「学校に行く通学路で行方不明になれば親の責任、学校の門をくぐれば学校の責任だと思います」
どよめく法廷には、リンちゃんの両親もいた。怪訝な表情を浮かべた弁護人は、再び澁谷に尋ねる。
「通学路で起きた事件は、親のせいということですか」
お前にだけは言われたくない。誰もが抱いた思いを代弁したわけだが、澁谷は悪びれる様子もなく真顔で、
「私は(自分の子供の登校では)学校について行ってますし、子供から目を離しません。親の義務です」
などと、あまりに理解しがたい妄言をくり返した。
振り返れば澁谷は逮捕されるまで、リンちゃんと同じ小学校に通う2人の子供の親として、「保護者会会長」の立場にあった。
通学路の見守り隊の一員として、毎朝子供たちと接していた“自負”が妄言を生んだのか。ちなみに、公判で無罪を主張していた澁谷は、犯人としてではなく「保護者会会長」の立場から、リンちゃんを守れなかったと裁判冒頭で謝罪の言葉を述べていた。
にもかかわらず、最後は遺族を逆撫でする「責任論」を展開したとなれば、犯人か否か以前に、澁谷の全人格が疑われる。
再び先の場面に話を戻せば、裁判長はこうも聞く。
「たとえ登校中に起きた事件でも、最も悪いのは犯人ではないですか」
さすがの澁谷もこれには、
「そうですね」
と応じた。これを聞いた裁判長が矢継ぎ早に、
「それでも今、ここにいる遺族を糾弾するのですか」
と澁谷へ問うたところ、
「糾弾はしていません」
などと抗弁し、リンちゃんの父も仕事前に時間があったのなら、付き添うべきだったとまで口にしたのだ。
裁判の傍聴を続けていた司法記者が話を継ぐ。
「この日の澁谷は、逮捕の決め手となったDNA鑑定など、一連の捜査がでっち上げだとして身の潔白を淀みなく主張しました。それで最後に事件への見解を問われ、緊張の糸が切れたのでしょう。その歪んだ本性を吐露したのです。裁判の争点ではない被告の“持論”に、裁判長が畳み掛けるように質問するのは異例のことで、裁判員たちの心証も最悪な結果になりました」
改めて、法廷に立ち会ったリンちゃんの実父レェ・アイン・ハオさん(35)が言う。
「どういう意味なのか、澁谷被告に聞きたい。もし、あなたの子供が同じように殺されたら、親の責任なのか。この裁判で、被告が娘を殺害したということがハッキリ分かりました。だから必ず死刑にして欲しい」
早ければ7月初旬にも判決が下される見通しだが、極刑を求める署名数は既に120万人を超えたという。
「週刊新潮」2018年6月28日号 掲載
新潮社
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