昨年末に31万人を突破した外国人留学生。コンビニや飲食店で働く外国人の姿はもはや日常となったが、その陰には仕事をしなければ生活できないという厳しい現実がある。週28時間までの就労基準を超え、バイトざんまいの毎日……。そんな“出稼ぎ留学生”たちの知られざる生活に迫った
◆就労基準を大幅に超え、連日深夜までバイトに明け暮れる留学生たち
「お待たせしました!」と小走りに駆け寄ってくる一人の男性。時計の針はすでに深夜1時を回っている。某ラーメンチェーンでのバイトを終え、練馬区にある自宅へと案内してくれたのは、韓国人留学生の朴昌亨さん(仮名・22歳・男性)だ。来日して以来、朴さんは語学学校に通いながら、過酷なバイト生活を送っている。
「韓国では受験戦争に負けた人たちはアメリカの大学に行くことが多く、斡旋業者に頼むことが多いんです。僕は家庭の事情もあって、どうしても費用が捻出できず、日本への留学を決めました」そう語る朴さんは、1K5畳・家賃4万円のアパートに、同じ斡旋業者を利用した留学生と暮らしている。ベッドはひとつしか置けないため、床に寝袋を敷き、日替わりで寝床を交換するという。
「2年分・300万円の斡旋業者への支払いは親がしてくれました。『あとはバイトをすれば賄える』と聞きましたが、日本は物価が高いし、難しいです(苦笑)。月5万円程度の仕送りをもらっていますが、それだけでは暮らせません」
留学生のアルバイトは、法律で週28時間までと定められているが、朴さんはその上限を優に超え、週6日働いているという。
「バイト開始から半年で、店を切り盛りすることもありました。日本語で言う『ワンオペ』ですよね。今は1か月で18万円ほど稼いでいます。学校は午前の部が12時に終わるので、そのまま出勤して深夜まで働いています」
就労制限について聞くと、「ウチの店では誰も守っていない」とのこと。バイトと勉強で休む暇はないが、朴さんは今後も日本で暮らしていきたいと語る。
外国人が日本で働くのは容易ではない。就労ビザを取得するには、就労先が決まっていることが前提となる。その条件となる高いビジネススキルや日本語能力を持っている外国人は、ほんの一握りだ。
また、技能実習制度もあるが、こちらは業務内容が限られている。その点、留学生ならば28時間の就労基準さえ守っていれば、より柔軟に仕事を選ぶことができる。
こうした仕組みから、明らかに就労目的で来日する“出稼ぎ留学生”も珍しくない。『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社)の著者・出井康博氏は現状をこう分析する。
「過去4~5年の私の取材経験から言えば、半数以上が出稼ぎ目的です。特に日本語学校に入学する留学生は、学校と組んだ斡旋業者に150万円ほどを払い、借金漬けで来日することも多い。翌年分の学費を貯めつつ、週28時間の労働で借金の返済をするのは無理がある。現状の法律は、仕送りのない留学生は想定していないんです」
仮に家探しやビザ申請などの費用を前払いしても、日本での生活を維持すること自体が大変だ。
「初期費用は親に払ってもらいましたが、’15年の中国バブル崩壊で仕送りがゼロになりました」
そう語るのは中国人留学生のリンさん(仮名・24歳・女性)。最大4つのバイトを掛け持ちし、今も労働地獄から抜けられない。
「日本に来たばかりの頃は、なかなか雇ってもらえず、月の食費は1万円。バイト先のまかないで食いつないでいました。今は語学学校の授業が終わるお昼すぎからコンビニ、夜は飲食店、休日は運送会社の冷凍倉庫で働いています」
週7日働いても、月給は15万円程度。家賃3万5000円のシェアハウスで暮らしているが、光熱費や携帯料金、学費を払うと手元には2万~3万円しか残らない。
リンさんの家を訪れると、個人スペースは2段ベッドの下層部のみ。薄い壁で仕切られているため、隣の部屋からは咳をする音も筒抜けだった。ギリギリの生活が続くが、現在は「なんとか日本で就職したい」と、忙しい合間を縫って就活に勤しんでいる。
◆留学生=労働力という矛盾した発想
ここまで切迫した状況でなくとも、週28時間の枠を超えて働く留学生は多い。都内の某私立大学に通いながら、英会話教室で働くのは、アメリカ人のリズ・メイヤーさん(仮名・27歳・女性)だ。家賃7万5000円、駅近のワンルームに暮らすリズさんの環境は、朴さんやリンさんに比べれば恵まれている。しかし、友達と遊びに出かけたり、これだけの広さの部屋で暮らすには、バイトは欠かせない。
「もっと家賃の低いシェアハウスに住んでいたこともありましたが、周りがうるさくて勉強もできないし、ゆっくり休むこともできませんでした。今は週5日5時間ずつ英語を教えています。土日に人が足りなくて出勤すると28時間をオーバーしますが、そこは教室側がシフトをうまくごまかして……」
勉強をしにきたはずの留学生が、仕事に忙殺されている……。この歪な状況は改善するどころか、さらにエスカレートしそうだ。
「新聞配達の現場なども留学生なしには成り立たなくなっています。就労の上限を28時間から引き上げようとする動きもありますが、それこそ本末転倒。そもそも留学生を労働力として活用する発想がおかしい。こんな矛盾した制度は世界でも珍しいです」(出井氏)
留学生という言葉の意味が、根底から変わっているのだ。
― 出稼ぎ留学生の実態 ―
日刊SPA!